十九世紀半ばに表わされた本書は、この分立観を否定し、Crown in Parliament に主権を 認めるイギリス憲政の現実運営は、議会と行政機構とをハイフンのように結合する内閣主 導による次第を剔示しました。
国王の憲政行動が、名目上はともかく、じっさいには政治家との関係で、国王に立派な 分別があるならばもっぱら「相談ヲウケ・激励シ・警告スル」三点にかぎられてきている、 との定式化も現実を先取りしつつもバジョット・テーゼとして、今日にいたるまでイギリ ス政治分析の手引きとされています。
さらに本書は、このように内閣を媒介に結合する立法権力と行政権力とが、王冠の権威 と複合し、権力自身もまた権威化しつつ<尊厳的部分>と<実践的部分>との分業と協業 との幾重もの重層構造をなす「支配の秘密」を白日の下にあばきだした点でも著名です。
本書が想定した大衆がたしかに王冠に眩惑される善男善女であったとはいえ、マスメデ ィアが発達し・教育が普及した今日の大衆も、やはり権威への自発的同調と需要とを示し ます。
今年創刊百五十二周年を迎える 『エコノミスト』 誌の二代目の編集長でもあった著者 には別にイングランド銀行を中心とする英國金融秩序を考察した 『ロンバード街』 があ り、その結論は、理論的にみれば拙劣な制度でも、すでにさまざまな事情の輻輳の結果と して一定機能をそれなりに有効にはたしている以上、根本的改革よりは、適宜、弥縫しつ つ改良するのがよし、とするものでした。
おそらく、政治制度についても、「狂気のソクラテス達」(E .バーク 『フランス革命 の省察』Reflections on the Revolution in France)の企図する設計図にもとづく改造よ りは、歴史的現実の累積にもとづいて現在このようになった作動体系の中に、改良しつつ 運用するのに足りるものを発見するのが、著者の姿勢といえましょう。