苺畑よ永遠に:前“安保世代”の甘ずっぱい青春

 新潮社 1994

   加藤幸子 著


(文学) [書誌所在情報] [みなさんの感想]

中川昌子(薬学部)

 書き下ろしの長編小説である。著者の文壇デビュー作となった「野餓鬼のいた村」(新 潮新人賞受賞)、芥川賞を受けた「夢の壁」いらい、歳月をかけて書き続けている自伝的 連作の1つである。主人公は藤本佐智。東京の女子高校から北海道の国立大学農学部に入 学、卒業するまでの4年間を描いている。山岳スキー部の部員生活、苺の栽培実験をテー マにした卒業論文、卒業と同時に公務員となるなど、佐智の学生生活は作者のそれとほぼ 重なる。細かな部分もそうであるのかどうかは、むろんよく分からない。

 したがって、自伝的と「的」を付したゆえんでもあるのだが、1読者としての立場から は、そういうこと −−− 虚か実かなどということは、本来どうであってもよいわけで、 それよりも、さらに大切なのは、理系のコースを選びながら、そして、卒業後もその理系 のコースに就職しながら、それらの歩みの歳月をきわめて文学的に生き、成長していく佐 智の姿であろう。思わず文学的ということばを使ったが、厳密に言えば正しくない。文学 そのもの、と言える。

 つまり、現在57歳になる作者であればこそ、描き得る「佐智の姿」なのであり、それだ からこそ、<成熟した青春の物語>として、読者は安心して読み、楽しめるのである。

 女性部員はひとりだけ、という山岳スキー部の、冒険的な雪山行と部員達の生活、これ また女性ひとりでの苺畑の栽培と実験の日々、そして青春の恋と愛の煩悶の日々−−−。

 その日々は、いわゆる<60年安保>世代より一歩だけ早い時期、そんな時代背景のなか で、佐智たちの青春は甘ずっぱい。若い学生諸君に一読をおすすめする。


culis@ll.chiba-u.ac.jp Jun. 1995