菊と刀
社会思想社 1967
ルース・ベネディクト 著
(社会科学)
[書誌所在情報]
[みなさんの感想]
倉智恒夫(文学部)
最近または外国人によって書かれた日本人論がもてはやされている。なぜ日本人はこん
なにも他人の目に映じた自分の姿にこだわるのだろう。この問いに答えてくれるのも、ア
メリカの高名な文化人類学者ルース・ベネディクトによる日本人論
『菊と刀 −− 日本の文化の型』 である。日本人の行動規範は、恥にあるという。
他人が自分の行動にたいし
てどういう判断を下すか、その他人の判断を基準にして自分の方針を定める、日本の文化
は恥を基調とする文化である。したがって人目がなければ、行為の善悪は問題にならない。
実に矛盾に満ちた国民である。その最たるものは、
「美を愛好し、俳優や芸術家を尊敬し、
菊作りに秘術を尽くす」と同時に「刀を崇拝し武士に最高の栄誉を帰する」という<菊>
と<刀>に象徴される2面性である。この書は、1944年、対日戦争集結を目前にして、日
本の戦後処理政策決定のために、アメリカ陸軍局の委嘱を受けて書かれた。戦争慣習から
して、欧米人とは全く異質の物の考え方をするらしい日本人の行動パターンを予測するこ
とが、戦後統治政策に重要であったわけだ。ベネディクトは、そうした特異性が、日本社
会の階級制度や、義理と恩、その返済と復讐、徳のディレンマと調和という道徳律によっ
て合理化されることを示す。こうした分析は大いに示唆的であるが、その全てがわれわれ
を納得させるとは限らない。しかし日本人と日本の社会が何たるかを考えようとする者に
は、多くの貴重な手がかりを与えてくれる貴重な日本論であることには変わりない。
この書物を読むときに、フランスの英国通ルイ・カザミアンの 『イギリス魂−−その
歴史的風貌』 (社会思想社・現代教養文庫、Ce qu'il faut connaltre de l'Ame Anglaise,
1927.)を座右にもつことを勧める。ルース・ベネディクトは、彼女の日本人論を展開す
るときに、カザミヤンのこの書によるイギリスをひとつのモデルとして念頭に置いていた
と思われる。それほど、両者を重ね合わせてみるとき、そこには共通したひとつの文化パ
ターンが透けて見える。かたや戦後処理の政治イデオロギーに立って特定の文化パターン
に日本文化を押し込めようとするベネデクトの方法を、「日本文化への墓碑銘」と称して
痛烈な批判を浴びせたダグラス・ラミスの 『内なる外国−−「菊と刀」再考』(時事通信社)も一読に値する。
culis@ll.chiba-u.ac.jp Jun. 1995