細胞の世界を旅する(上・下)
東京化学同人 1990
Christian de Duve 著(八杉貞雄、大久保精一、八杉悦子 訳)
(自然科学)
[書誌所在情報]
[みなさんの感想]
野田公俊(医学部)
著者のクリスチャン・ド・デューブは、1974年にアルバート・クロード、ジョージ・パ
ラディと共に "細胞の構造的および機能的構築に関する諸発見" によって、ノーベル医学
生理学賞を受賞した。この偉大な科学者が信頼の置けるガイドになり、私たちの日常の経
験からは遠く隔たった世界への、たまらなく面白い冒険旅行へと誘ってくれるのが、この
"細胞の世界を旅する" である。この本が他の多くの書物と大きく異なる点は、著者の"ま
えがき"をみれば納得できる。その一部を引用すると、「−−若者たちに、細胞の構造を
バランス良くわからせるにはどうしたらよいかと考えて、私はかれらを観光旅行につれて
行くというアイデアを思いついた。私たちが細菌の大きさにまで縮むか、でなければ細胞
を100万倍に膨らませるかだ。どちらにしても結果は同じ。そうすれば私たちは、都合良
く歩きまわれる、というよりは泳ぎまわって、細胞のいろいろな部品を見てその構造を観
察したり、それらが実際に働いているところを眺めて機能を理解したりできるであろう。
−−−」。このちょっとしたアイデアは、私たちにすばらしいSF物語を読むような感動
を与えてくれると同時に、自らが "宇宙飛行士" ならぬ "細胞飛行士" となって実際に細胞
の世界を旅するスリルを味わうことができる。専門用語を用いず、時として語りかけるよ
うな口調で物語りは進んで行く。旅は三つの旅程に分かれている。第一部は、細胞の周囲
と表面、第二部は細胞内の小器官、そして第三部の核である。私たちは、この最後の旅で
細胞分裂という秩序だった大変動に遭遇し、それがクライマックスに達するとき、その騒
ぎを利用してガイドに導かれて最後の出口に向かう。すばらしい宇宙旅行ならぬ細胞旅行
を終えたとき、読者は生命の神秘にふれた喜びを感じると共に、とかく断片的になりがち
な生物学の知識を、自らの世界として実際にイメージする事に成功した自分を発見するこ
とでしょう。
culis@ll.chiba-u.ac.jp Jun. 1995