「研究の途上で、今やっている研究方法はこれでいいのだろうか、間違いのない成果が 得られるのだろうか、ということをふと考えはじめると、不安でたまらなくなることがあ る。異なった方法は異なった真理を生むとさえ言われるほど、研究方法は研究の成否をに ぎる鍵ともいえる。自分で研究方法を厳しく批判・反省して、正しい成果を得るようにせ ねばならない。(中略)研究方法論あるいはこれに近い思考は、研究をいくらかでも正し い方向に誘導してくれるものであるだろうし、研究の泥沼から這い上がるときの一本の綱 の役目をしてくれるものと思われる。」と著者の`あとがき'に記されている。
『実験以前のこと−農学研究序論−』 という変わった表題の本だが、これは著者が長 年試験研究にかかわりながら、座右の書として親しんでいたというクロード・ベルナール の名著 『実験医学序説』 にあやかる発想があったのかも知れない。内容は解りやすく、 試験研究を行うにあたっての思考過程を克明に点検・考察する一方で、日常生活にまつわ るユーモアを交えた比喩で読者を引きつける柔軟さは、著者の人柄によるものであろう。
ちなみに、この本の著者は、長い間農林水産省の試験場でイネ病害の試験研究に携わっ たのち、民間の製薬会社の研究所で農業用殺菌剤の開発を行い、多くのすぐれた業績をあ げた植物病理学者である。