全体主義の時代経験

みすず書房 1995

   藤田省三 著


(社会科学) [書誌所在情報] [みなさんの感想]

古茂田宏(文学部)

 「全体主義」という言葉をどこかで聞いたことがあると思う。「ヒトラー」とか「スタ ーリン」といった固有名詞とつながる時代の、非常に不快な言葉として。だが、あくまで も自分とは関係のない遠い世界の逆ユートピアを指す言葉として……。もちろん、ハンナ・ アーレントが解明した「政治支配における全体主義」についてだけ言うなら、そのように 見ることもできる。だが、難民を組織的に再生産するという逆説的な支配形態としての全 体主義は、ファシズムの敗北やスターリニズムの自壊とともに終りを告げたと言ってよい のだろうか。本書は、今日的な生活のありかたを「生活様式における全体主義」と特徴づ け、その一見華やかな情景の裏に広がる深い絶望(能動的ニヒリズム)を、全体主義の時 代たる二○世紀という大きな精神史的文脈に置き直して的確に暴き出す。「不屈のペシミ スト」藤田の書いたこの「最後の書物」(「序」)は、いろいろな意味で歯応えのある厳 しい書物だが、それだけに、気安めではない励ましを与えてくれる。
culis@ll.chiba-u.ac.jp Jun. 1995