楽しむということ
思索社 1991
M. チクセントミハイ 著(今村浩明 訳)
(社会学)
[書誌所在情報]
[みなさんの感想]
三浦弓杖(教育学部)
著者は、現代文明社会に住む人々が「仕事」と「遊び」という二分法に従うを当然のこ
ととし、物質的報酬の獲得に強く動機づけられていることが、やがて人間性と資源とをと
もに枯渇させてしまうことを危惧し、内発的報酬獲得による楽しさの開発の必要を主張す
る。「仕事」も楽しいものであり得るし、「遊び」が常に楽しいとは限らない。真に重要
な二分法は「仕事か遊びか」ではなく、「外発的報酬による満足か内発的報酬による楽し
さか」であるとする。このような発想に基づき、著者は心理学、社会学、文化人類学等の
広範な知見を駆使し、更にロック・クライマー、チェスのプレイヤー、外科医など、自ら
の活動それ自体を楽しんでいる人々に対する実証的な研究を通して、楽しさの生ずる条件、
楽しい活動に没入しているときの心理的特徴、楽しさと社会や文化の構造との関連を明快
かつ平易に説明している。
現在わが国では平均寿命の延伸、余暇志向の増大等の社会的背景から、生涯学習の重要
性が認識され、それとの関連で学校教育においても学習の「楽しさ」や「喜び」が強調さ
れているが、「楽しさ」や「喜び」の本質は依然として曖昧なまま放置されている。また、
最近の国際調査によれば、現代わが国の青少年は物質的豊かさや余暇活動を享受しながら、
幸福感や日常の生きがい感は相対的に低いことが明らかにされている。大量生産と大量消
費に起因する環境破壊も進行しつつある。このような状況を考えるとき、「楽しさ」の本
質をとらえ、その日常生活への適用の方法を示唆する本書は、現代わが国の人の生き方、
教育のあり方、社会や文化のあるべき姿等について多くの豊かな知見をもたらすものと考
える。(『楽しみの社会学』(1979年)の改題)
culis@ll.chiba-u.ac.jp Jun. 1995