ところが、最近「現象学と表現主義」(フェルマン著、木田元訳、岩波現代選書)を読 んで、その明快・流麗な文章に驚き、訳者はどんな方か興味をそそられ書店に問い合わせ た。哲学の翻訳書は睡眠剤であるという私の偏見は完全に修正され、ついでに何冊か読ん でみたものの一つが表題の本である。
哲学は抽象的な議論に終始して、現代的な意味を失っているように見えるが、そうでは ない。哲学がいつも求めているのは、普遍的な真理に到達する方法である。それは多分存 在しないのであるが、我々の理性や認識の根拠を問う過程で、主観と客観の問題や、我々 の経験(体験)の中にあるものと、体験を超えた部分などの重要性が判ってくる。認識と は、まさに精神の機能である。
本書は、ドイツの現代を代表する哲学者五人の重要論文を翻訳したものである。現代哲 学の問題構制(西ドイツ1960−1977)、思惟の省察(超越論的哲学)、哲学の現在(構造 存在論)、理解の循環について(哲学的解釈学)、知識の根本的基礎づけ(超越的遂行論 と批判的合理主義)の五論文が載っている。巻末に36ページにわたり現代哲学用語の簡単 な解説がある。カント、ヘーゲル、フッサール、ハイデッカーと続く、超越論、弁証法、 現象学、実存主義というドイツ哲学の伝統を踏まえた彼らの問題意識や関心領域が概観で きる内容である。
哲学に親しむことは、人間や科学を別の観点から観ることを可能にする。ヴァーチャル リアリティの背後にある真実への関心に目覚める事は、多分終生にわたる生き甲斐を発見 することにつながるであろう。