南極越冬記

(岩波新書)1977

   西掘栄三郎 著


(地理・地誌) [書誌所在情報] [みなさんの感想]

小野寺淑行(教育学部 附属教育実践研究指導センター)

 日本南極地域観測隊・第一次越冬隊長による、題名どおりの記録である。だいぶ古い時 代の話ではあるが、あの「南極物語」に登場する、タローとジローを置き去りにして昭和 基地から撤退せざるをえなかった人々の物語であると聞けば、読んでみようという気が起 こるのではないか。これは、まさにその撤退劇にいたるまでの1年間にわたる、日本初の 南極越冬隊員11人の物語である。南極観測というものが学術研究半分、探検半分という時 代のことであるから、隊員の勇敢で冷静な行動あり、即席の観測装置の製作あり、ノイロ ーゼ対策ありと、盛沢山である。たとえば、俗にいうブリザード(雪あらし)のときに舞 い狂う雪の中には、天から降ってくるものと、降り積もっていたものが飛ばされてくるも のとがあると考えられるが、それぞれがどれぐらいの割合であるかを測定するための装置 を作ったというくだりがある。「密度分布測定器」という名称が付けられたこの「装置」 は、材料にしろ、構造にしろ、小学生の夏休み研究の題材にもありそうな代物である。そ れでいて、たしかに目的を十分に果たしうる装置だったのである。ふんだんに掲載されて いる写真の中の1枚に、この装置を写したものがある。この部分を読んだ人は「なあんだ」 と思い、また「なるほど」と感心することであろう。全般に、著者の私情を交えて書かれ ている。隊員達がマージャンに興ずるのを苦々しく思っている様子がよく伝わってくる。 同時に、マージャンに溺れてはいない隊員たちの様子もうかがうことができる。南極での 越冬とまではいかないにしても、われわれが未知の困難な分野に挑戦しようとするとき、 事前にクリアーしておくべきことは何か、どんなリーダーシップが必要になるのか、また、 われわれ自身の気概が如何に重要なものであるのかを、それとなく教えてくれているよう な、そんな本なのである。
culis@ll.chiba-u.ac.jp Jun. 1995