風土

岩波書店 1978

   和辻哲郎 著


(東洋思想) [書誌所在情報] [みなさんの感想]

大賀宣彦(理学部)

 すでに図書館に配架されていると思うが、敢えて指定する。この著書が書かれたきっか けが、ハイディガ−の 『有と時間』 (私も以前読んだことがある)を読んだ時に、その 書に欠けている空間性や歴史性を配慮し、「風土」という人間と自然環境との深い関わり を取り上げた講義をもとにしたものである。自然環境は非常に多くの要因が複雑に絡み合 い、しかもその要素の質や量が時間的(季節的)に変化したり、空間的にも大きな差異(局 地的、気候帯、標高など)がある。人間がその自然をどのように利用するかは、自然を構 成する要素に対する人間の価値の判断基準によって決められてしまう。私は「知ることは 愛の出発点である」という言葉が好きである。どんなに小さく、弱い自然要素であっても、 それを「知ること」を怠ったり、「知ること」を忘れて私利私欲の追求だけに汲々とする 者には、また単に人間にとっての利便性を優先させていく限り、決して小さな、弱い自然 に対する「愛」は生まれない。自然の人為的な支配が可能だという誤った錯覚に陥って、 その行為が取り返しのつかない地球規模の自然破壊の原因になることを認識できない。 「風土」は人間と自然環境との深い関わりを人間学的に考察した内容であるが、彼の深い洞察 をもとにした記述には、その底流に自然の大きさ、その複雑な自然に強く影響されながら 生きる姿、人間生活そのものが自然環境によって明確に特徴づけられることなどが述べら れいる。それらは私が自然に対するときに、つねに念頭に入れている「知ることは愛の出 発点である」と相通ずる考え方をもとにした自然環境の中で人間生活、芸術、歴史性につ いて纏められている。

 内容的に難解な部分もあるかも知れないが、じっくり時間をかけて、何回も読んで欲し い本である。本は読んで丸暗記したり、真似するものではなく、読みこなして自分のもの にするものである。この本は君達のこれからの人生、基本的な考え方の構築に必ず役に立 つと思う。


culis@ll.chiba-u.ac.jp Jun. 1995