ホット・ゾーン(上・下)

飛鳥新社 1994

   リチャード・プレストン 著(高見浩 訳)


(文学) [書誌所在情報] [みなさんの感想]

清水文七(医学部)

 19世紀の幕が閉じようとする1892年、ロシアのイワノフスキーによってタバコモザイク 病が細菌とはことなる感染性因子によって伝染することが明かにされた。ウイルス学への 幕開けであった。まもなく、黄熱などの病原体としてウイルスは認識されるところとなっ た。1918年にはスペインかぜが世界中を圧巻して、数千万人の死者をだした。その後、ウ イルス学研究者はウイルスを試験管にとじこめて研究することに成功し、幾多のワクチン を開発して、有史来人類を悩ましてきた天然痘を根絶することにも成功した。その歓喜の なか、1983年にはエイズが大都会に出現して瞬く間に世界中をおおって、人は新たなウイ ルス病と対峙しなくてはならなくなった。

 本書ではエイズより凶暴で致死率のべらぼうに高いアフリカ生れのエボラウイルスがサ ルとともにワシントンに出現する。宇宙服に身を固めた陸軍伝染病研究所の一隊は500匹 余りのサルを殺処分してことなきを得る、が、感染すると高熱と大量出血によって命をお とす。ベールに包まれて得体の知れないこのウイルスに接した人々には常に死の恐怖がつ きまとう。1976年、ザイールでは318人が感染して、うち280人が死亡している。このウイ ルスの治療法も予防法も確立されていないのだ。四部構成のこのノンフイクションは、そ の分野の第一線のウイルス研究者を実名で動員してこの新顔のウイルス病への挑戦状を公 開する。

 熱帯雨林は芳純な生命の揺篭であり、ウイルスの故郷でもある。エボラやラッサそして エイズといった新顔のウイルスの出現は熱帯雨林の破壊と軌を一にしている。住家を破壊 するヒトに対して自然の摂理はウイルスに味方しはじめたのではないかと著者はみる。


culis@ll.chiba-u.ac.jp Jun. 1995